研究内容
カーボンニュートラルに向けたエネルギー変換に関する研究を進めています.具体的には,炭素資源からのCO2フリー水素生成,燃料電池を用いた炭素資源のエネルギー転換,CO2を原料とした有用物質生産(CO2電気分解)などです.CO2電気分解では,CO2から酸素も生成できる点に着眼し,宇宙探査分野への活用も検討しています.さらに,原子レベルからアプローチできるDFT計算(Density Functional Theory)に基づいたマテリアルズ・インフォマティクスを進めています.
固体酸化物形セルを用いたCO2電気分解
CO2電気分解(CO2→CO+1/2O2)は,カーボンニュートラル分野だけでなく,O2が貴重なリソースとなる宇宙惑星探査分野においても注目されています.しかしながら,その核となる電極で起きている現象は不明な点が多いのが現状です.CO2電解の課題(たとえば,CO2酸化や炭素析出)を解決できる機能性電極の開発が求められています.当研究室では,電極開発と性能評価に加えて,オペランドX線分析や第一原理計算といった手法を用いて,原子レベルからCO2電解電極の機能発現を明らかにする研究を進めています.
オペランドX線分析
X線は電磁波の一種で波長が短く(0.01-10nm),原子レベルでの構造分析に適しています.これまでにない新しい機能をもつ電極設計指針を提示するためには,原子レベルから設計するアプローチが有効です.本研究では,本学SRセンターやSPring-8の放射光ビームラインを使用して,作動中の固体酸化物形セルの電極表面の状態をリアルタイムで明らかにします.放射光は,通常のX線発生装置から得られる光の明るさよりも,非常に大きく指向性も高い特徴があり,原子・分子・ナノの構造や,電子が関わる機能を観察できます.
SOEC device for operando X-ray analysis
BL-3 experimental hatch in SR-center, Ritsumeikan University
DFT計算とマテリアルズ・インフォマティクス
Density Functional Theory,略してDFTです.日本語でいうと,密度汎関数理論です.難しい理論ですが,近年は物質・材料研究で「ツール」として広く使われるようになりました.原子レベル構造を考える上で,X線や電子顕微鏡も有効ですが,DFT計算は,原子構造をコンピューター上で表示してくれます.超高解像度顕微鏡といった見方もできます.当研究室では,実験に使えるDFT計算をコンセプトにして研究を進めています. DFT計算から得られるデータを電極開発に応用するマテリアルズ・インフォマティクスも進めています.計算には,理研のスーパーコンピューター「富岳」を使用します.
Atomic model of Ni/YSZ triple phase boundary
電極独自開発
電子顕微鏡観察やオペランドX線分析,DFT計算から得られた情報をもとに,電極触媒を独自で開発し,その性能評価を行います.
Development of electrode and catalyst
炭素系エネルギー変換
石炭,バイオマス,天然ガスといった炭素系エネルギー変換において大幅なCO2削減が求められています.CO2を排出しない水素生成や高効率かつ分散型発電に適した燃料電池の活用が望まれています.当研究室では,ケミカルループによるターコイズ水素と炭素生成,そしてダイレクトカーボン燃料電池の開発に取り組んでいます.
ケミカルループによるターコイズ水素と炭素生成
炭化水素ガスの熱分解から,ターコイズ水素(化石燃料由来だが,生成時にCO2を排出しない水素)と固体炭素を連続生成する研究に取り組んでいます. また,CO2から固体炭素を生成する研究も進めています.
ダイレクトカーボン燃料電池
固体炭素を直接,電気エネルギーに変換する研究に取り組んでいます.固体酸化物形セルをベースとしています.固体炭素は貯蔵性に優れており,また産業プロセスに多く存在します.未利用の炭をオンサイト発電することができれば,産業プロセスの一層の高効率化が期待できます.
Energy conversion of carbon resources